作品のテーマが明確で良かった。個人的には「良作に近い佳作くらい(☆5段階でいうと、☆3.5~☆4)」という印象。
ググって見ると国内の評価が軒並み低いのだけど…。
この作品を見たきっかけ
「パラサイト 半地下の家族」という映画が韓国における社会問題をえぐり出していると話題になっていたので、その作品のポン・ジュノ監督が過去にどんな作品を作られているか気になって調べてみたら、この「スノーピアサー」が見つかったので見てみた。
個人的感想
あらすじ
地球が氷河期を迎え、人類の大半が死滅、唯一生き残った人類は、永久機関で動く大陸横断列車に詰め込まれ生きている。
列車内の人々は階級ごとに分けられ(列車の先頭ほど上流社会、後ろに行くほど下流社会)、最後尾の車両では、人々は奴隷のような生活を送っている。下層で生きる主人公が人間的生活を求め、クーデターを起こすところから物語は始まる。
感想
一見、SFの設定だけど、SF作品というよりは、
SFの皮を被った、社会問題を問いかける系の作品。自己完結した閉鎖経済(ざっくり言えば地球単位での資本主義社会)の問題点を浮き彫りにしたかったのかなと感じた。
今話題になっている「パラサイト」と同様の作品性かなと。他の過去作品の概要を眺めてみても、同じような雰囲気が感じられるので、監督自身の根底に『映画(エンターテインメント)を通して、社会問題を世に問いたい』という意思があるんじゃないかなと。
・・・
SAW、キューブのように閉鎖空間内で物語が展開する系(※ジャンル的にはミステリーではない)なので、出だしの段階から、作品の描く世界の「縁」が明確に定まっており(この列車内の世界の外側は"基本的に"考える必要はなく)、列車内での事物と、現実世界(資本主義社会)における事物との対比が考えやすかった。
おかげで、映像を楽しみながら、考え事にふけることができて、作品を通してほどよい頭の体操になったので、最終的に『面白かった』という感想を抱いた。
国内外での評価の別れ方
国外のレビュー評価は軒並み良好という極端に評価が別れており気になった。
国内外の評価を詳細に眺めてみたら、日本での評価内容はおおむね『舞台設定やキャラの作り込み、展開などの”細部”が雑い』という評価。海外はざっくりと『作品全体として面白い』みたいな評価。
作品細部の雑な感じに関する個人的見解
作品のテーマ(作り手が伝えたいこと)がストレートで、物語の展開も意外性はありつつ、序盤から張り巡らされた伏線や、主人公のクーデターが妙に上手く運ぶという違和感もキッチリ回収されるので、プロットも上々ではないかなと。
細かい点では色々気になることもあるのだけど、
例えば、『永久機関で動く列車』というのは、物理学的に存在しえないので、実際にそうであるという設定ならジャンルとしては「SF」ではなく「ファンタジー」なのだけど…。物語の最期には、『永久機関の部品が壊れたから**で代用している』という、「それ、永久機関じゃないじゃん(外部からエネルギー受け取ってるがな…*1)」と突っ込まずにはいられない矛盾を孕んでいたわけで、
永久機関で動いていると見せかけて、最期には「この世界に永久機関なんてないよ」と気づかせる悪質なメッセージを込めた、あえての設定だったのでは、と考えると、皮肉がきついSF作品だなと思わないでもない。
原作がフランスの小説らしく、ボリュームも有るっぽいので、映画ではそのあたりの枝葉末節は省かれているせいでなんだか雑な印象があるような気もするのだけど…、まぁ、なんだろ原作からしてそのへんは気にしてない可能性も考えられる。
ただ、1つ確かなのは、設定の細部についてツッコミ要素があるせいで、作品のテーマがブレてるかと言うと、特にそんなこともなく、
作品のもつ「資本主義社会ってこういうところがあり、その点については、『人類』としては良いとは言えないよね」的な強烈なメッセージ性の前には、文字通り枝葉末節なのでどうでもいいかなという印象。
映像は綺麗だし、昨今の作品らしくダイバーシティに配慮してる感がヒシヒシと感じられるし、ちょっと痛い表現多くない?感がなくもないけど、総じて楽しめる作品だと思った。
ラストに『初見で物語全体に感じる(であろう)違和感』についてのネタばらしがあるので、2回見る動機に欠ける(というか、物語の緊張感がスポイルされるので面白みが激減すると思われる)ので、見るなら、1回集中して見るのが良いかな感。
*1:むろん、あの程度の外部エネルギーでは収支が合わないので、やっぱり永久機関があるとする前提かもしれないけど